メモの「あした」は、いつ?

六月四日、机に「あした、遊ぼう」と書いたメモがありました。六月三日に、その翌日に遊ぶつもりで書かれたメモです。では、遊ぶのは六月四日でしょうか、五日でしょうか。
「あした」と書いてあるから、読む日の次の日? それとも、書いた人が考えていた次の日? 同じ文字なのに、どの日を指しているのか、立ち止まって考えたくなります。
この記事の会話とメモは、ことばを考えるための作り話です。同じ年、同じ地域の六月三日・四日・五日を使います。まずは、その場で新しく話す場合から見てみましょう。
話す日が変わると、指す日も変わる
六月三日に、友だちへ「あした、遊ぼう」と言いました。その場の会話なら、「あした」は六月四日を指します。六月三日を出発点にして、その次の日を見ているのです。
では、六月四日に、別の新しい会話で「あした、遊ぼう」と言ったら? 今度は六月五日です。下の図では、二回の会話を別々の行にして、出発点と行き先を並べています。
「あした」が急に別の単語になったわけではありません。「基準になる日の、次の日」という仕組みは同じでも、基準の日が変わると、指す日が変わります。
このように、話す時などを手がかりにして何を指すかが決まることを、言語学では「直示(ちょくじ)」と呼びます。時間の直示では、「いつを出発点にするか」が大切です。
新しく言う日を、変えてみる
- 六月三日に言う
基準は三日。「あした」が指すのは四日。
- 六月四日に言う
基準は四日。「あした」が指すのは五日。
古いメモは、新しい会話とは違う

最初のメモに戻りましょう。六月三日に、その翌日に遊ぶつもりで「あした、遊ぼう」と書いたのでした。このメモで予定していたのは、六月四日です。
六月四日に見つけたからといって、予定が自動的に六月五日へ動くわけではありません。ここでは、書いた人が六月三日を出発点にしていた、という条件が手がかりになります。
二枚目の挿絵は、マスコットが残されたメモを確かめる場面です。読む時と、ことばの出発点になる時が同じとは限らない、と考えて見てください。
ただし、どんな文章でも「必ず書いた日を基準にする」とは決められません。あとで読まれる時を考えて用意した案内などもあります。文字だけを見て決めず、どんな使われ方をしているかを確かめます。
わからない時は、日付を聞こう
メモに日付がなく、いつの言葉なのかもわからなかったら? 「あした」の一語だけで、予定の日を一つに決めるのは難しいことがあります。
下の図は、今回のメモについて「書いた日」「読む日」「予定の日」を分けたものです。読む日をそのまま出発点にする前に、どの日を基準にした言葉かを確かめる必要があります。
友だちとは「それは六月四日のこと?」と聞き直せます。日をまたいで読むかもしれない案内なら、「六月四日に遊ぼう」と日付を添える方法もあります。
もちろん、日付を添えれば何でも伝わるわけではありません。必要なら年や時間、場所も確かめます。ここでは、近い数日だけを比べて、ことばの出発点に注目しています。
読む日と、予定の日を分ける
- 三日に書いたメモ
三日の翌日を指して「あした、遊ぼう」と書いた。
- このメモをあとで読むと?四日に読む
読む日が変わっても、今回の予定は四日のまま。
- 手がかりが足りなければ条件が不明なら確認
いつを基準にした言葉か、日付も添えて確かめる。
紙のカレンダーで、出発点を動かそう
紙に「六月三日」「六月四日」「六月五日」と書き、順に並べましょう。もう一枚に「あした」と書きます。まず三日を出発点にして、次の日を指で示してみてください。
次は四日を出発点にして、新しく「あした」と言ってみます。指す先は五日へ動きますね。出発点だけを変えた時、行き先がどう変わるかを比べる活動です。
続いて「六月三日に、四日に遊ぶつもりで書いたメモ」を別の紙で作ります。それを四日に読むまねをしましょう。この条件なら、予定の日は四日のままです。新しく言う場合と、残された言葉を読む場合を分けてみましょう。
本当の予定や住所を紙に書いたり、送ったりする必要はありません。架空の日付だけで試せます。「この言葉は、いつを出発点にしている?」という問いが、読み違いに気づく手がかりになります。
くらべると、何が見える?
次の表は、この記事のために作った例です。
| 注目すること | たとえば | 考える手がかり |
|---|---|---|
| 三日に新しく言う | 「あした」は六月四日 | その場の会話で、六月三日を基準にしている。 |
| 四日に新しく言う | 「あした」は六月五日 | 新しい会話では、基準になる日も四日へ変わる。 |
| 三日のメモを四日に読む | 今回の予定は六月四日のまま | 三日の翌日を指して書いた、という条件を確かめている。 |
ことばの小さな辞典
- 基準(きじゅん)
- ここでは、どの日を指すか考える時の出発点。
- 直示(ちょくじ)
- 話す時や場所などを手がかりに、指すものが決まること。
- 指す(さす)
- ことばが、ある日や物などを表すこと。
紙とえんぴつで、やってみよう
答えを送信する必要はありません。自分のノートに書いて、おうちの人と話してみてね。
- 架空の六月三日・四日・五日のカードを順に並べよう。
- 三日、四日と基準を変えて、新しく「あした」と言い、指す先を比べよう。
- 三日の翌日を指して書いたメモを作り、四日に読んでも予定の日は変わるか考えよう。

じぶんの考えを見つけよう
考えてみよう!
六月三日に「四日に遊ぶつもり」で書いた「あした」のメモを、四日に読んだら、予定の日は動く?
考えるヒントを見る
読む日と、ことばの出発点を別々の紙にしてみよう。四日に新しく「あした」と言う場合とも比べてね。
参考資料・さらに読む
おうちの方へ:お話のもとになった考え方を調べるための資料です(英語の資料を含みます)。身近な例や「考えてみよう」は、このサイトで作りました。
時間の参照が時間的な基準点(典型的には発話時)に対して決まるという説明はSILの本文を確認しました。同じ言語上の意味と文脈ごとの指示の違い、tomorrowなどの例、書記・録音で制作時と解釈の時が単純には対応しない点はSEPの1.1・1.3・4.4節を参照しています。日本語の会話・メモ・日付・挿絵・図・紙の活動は本サイト独自の架空例です。資料の原文は引用していません。
- SIL International「What is time deixis?」(時間の直示)
- Stanford Encyclopedia of Philosophy「Indexicals」1.1・1.3・4.4節
内容の誤りや出典についてのご指摘は、訂正窓口へお寄せください。


