テセウスの船と同一性

全部とりかえたら、同じ船?

板を少しずつ取りかえた船は、前と同じ船なのかな。「同じ」と言うときの理由をくらべます。

この記事で考えること:材料が同じ、形が同じ、ずっと続いている。「同じ」の理由を分けると、問いが見えてくる。

大切な船を、なおしていこう

マスコットが小さな木の船の板を交換し、取り外した板をそばに置いています。問いを考えるための想像図です。
マスコットが小さな木の船の板を交換し、取り外した板をそばに置いています。問いを考えるための想像図です。

木の船に、いたんだ板が1まい見つかりました。新しい板に取りかえると、また使えそうです。「同じ船を修理した」と言ってよさそうですね。

そのあとも、いたむたびに少しずつ板を取りかえます。とうとう、最初の板が1まいも残らなくなりました。この船は、最初の船と同じなのでしょうか。

最初の挿絵は、板を取りかえる場面です。続く図では、最初の船から修理が続くようすを追ってみよう。絵は問いを考えるための想像図で、古代の船を正確に復元したものではありません。

板が変わっても、船は続く?

最初の板だけ
新旧の板が混ざる
新しい板だけ
  1. 最初の船

    板は全部、最初に使った木。

  2. 少しずつ取りかえる
    修理の途中

    古い板と、新しく取りかえた板が混ざる。

  3. 修理を重ねる
    修理を続けた船

    最初の板が残っていない。それでも同じ船?

形は変えず、いたんだ板を少しずつ取りかえると想像した図です。

むかしから、答えが分かれた問い

古代の著述家プルタルコスは、『テセウス伝』で、アテナイの人々が船の古い木を新しい木に取りかえて保存したと書いています。その船が同じままなのか、ちがう船なのかについて、哲学者たちの考えが分かれたとも伝えています。

ここから「テセウスの船」と呼ばれる問いが知られるようになりました。伝承に登場する船について書かれた文章なので、この記述だけで、実物の船の形や修理のすべてがわかるわけではありません。

今は、考える条件をはっきりさせるために、形も大きさも変えず、板だけを順に取りかえたと想像しましょう。何を残せば「同じ」と言えるのかが、問いの中心です。

「同じ」の理由を、三つくらべよう

ひとつめは、材料に注目する見方です。「最初の木が大事だから、全部ちがう木なら、前とはちがう」と考えます。元の材料を守りたいときには、強い理由になります。

ふたつめは、つながりに注目する見方です。「一度に別の船を作ったのではなく、使いながらなおしてきた。同じ船の続きだ」と考えます。修理して物を使う日常にも合っています。

みっつめは、形や働きに注目する見方です。でも、同じ形の船をもう1そう作れたら、二つは見た目がそっくりでも、ひとつの船ではありません。「同じ種類」と「まったく同じ一つの物」は、区別したいですね。

古い板で、もう1そう作ったら?

マスコットが、新しい板で修理した船と、古い板を組み直した船を見くらべています。追加の問いを描いた想像図です。
マスコットが、新しい板で修理した船と、古い板を組み直した船を見くらべています。追加の問いを描いた想像図です。

さらに、取り外した板を全部しまっておいたと想像します。その板を組み直して、もう1そうの船を作りました。こちらは元の材料でできています。

すると、修理を続けた船と、古い板を組み直した船が、同時に並びます。材料を大切にする理由は後者に、修理のつながりを大切にする理由は前者に向かいます。次の絵と図で、その分かれ道を見てみよう。

これは、後の哲学者ホッブズが付け加えた問いとして紹介されるものです。二つは別々の場所に置ける船です。「どちらも最初の船そのもの」と答えると、では二つは同じひとつなのか、という新しい難しさが出ます。

二つの船へ向かう、二つの理由

修理のつながりがある船
元の板を集めた船
  1. 修理を続けた船

    新しい板でできている。使いながらなおしたつながりがある。

  2. 古い板を組んだ船

    最初の板でできている。元の材料が残っている。

  3. 答えを確かめる

    何を大切にして選んだ? その理由を別の修理にも使える?

取り外した板を保管して組み直す、追加の想像です。見た目が同じでも、二つは別々に並べられます。

答えの前に、何をくらべている?

大切なぬいぐるみの糸をなおしたら、同じぬいぐるみ? 自転車のタイヤを取りかえたら? 物を変えると、守りたい点もちがって見えるかもしれません。

ただ「気持ちで決めればいい」と終わらずに、理由を確かめましょう。見た目だけが基準なら、そっくりな二つをどう区別する? 材料だけが基準なら、板を1まい取りかえた時点で何が変わる?

哲学でいう同一性(どういつせい)は、同じひとつのものだと言えることをめぐる問いです。この船の問題には、いくつもの考え方があります。まずは、自分の答えがどの条件を大切にしているか、言葉にしてみよう。

くらべると、何が見える?

次の表は、この記事のために作った例です。

テセウスの船と同一性をくらべる
注目することたとえば考える手がかり
材料を重視最初の板を組み直した船に注目する元の木を残せる。修理し続けた船とのつながりをどう考えるかが課題。
修理のつながりを重視板を順になおした船に注目する変化を追いやすい。材料が全部変わった場合も認めるのか考える。
形や働きを重視同じ形で、水に浮かぶ船に注目する性質をくらべやすい。そっくりな二つが同じ一つとは限らない。

ことばの小さな辞典

同一性
あるものが、別の時点でも同じひとつのものだと言えること。
材料
ものを作っている木、布、金属など。
つながり
途中の変化を追って、以前のものから続いていると考えること。

紙とえんぴつで、やってみよう

答えを送信する必要はありません。自分のノートに書いて、おうちの人と話してみてね。

  1. なおして使っている身近な物をひとつ選ぼう。
  2. 部品をひとつ、半分、全部と取りかえた場合を順に想像しよう。
  3. 答えが変わるところを探し、その理由を材料・形・つながりのどれかと結びつけよう。

じぶんの考えを見つけよう

考えてみよう!

大切な物をなおしたとき、「同じ」と言うために何が残っていてほしい?

考えるヒントを見る

材料だけでなく、形、使い方、なおしてきたつながりも候補にしよう。その基準だと、そっくりなコピーはどうなるかな?

参考資料・さらに読む

おうちの方へ:お話のもとになった考え方を調べるための資料です(英語の資料を含みます)。身近な例や「考えてみよう」は、このサイトで作りました。

船の保存と意見の対立はプルタルコス『テセウス伝』の英訳を確認しました。古い板を再び組み立てる追加の問いと同一性の難点はStanford Encyclopedia of Philosophyを参照しています。修理の絵、三つの見方の説明、身近な物の活動は本サイト独自の整理です。

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