反復と読む楽しみ

くり返す言葉は、むだ?

同じ「まだかな」が、また出てきた。出来事だけの文と比べ、くり返す言葉が読む時間や期待にどう関わるか考えよう。

この記事で考えること:同じ言葉が戻ることも表現の工夫になる。くり返す部分と、その間に変わることの両方を読もう。

また「まだかな」が出てきた

マスコットが、種・芽・花のお話を窓辺で読む架空の場面。植物の育つ日数や、実在する作品の挿絵を示したものではありません。
マスコットが、種・芽・花のお話を窓辺で読む架空の場面。植物の育つ日数や、実在する作品の挿絵を示したものではありません。

「種をまいた。まだかな。芽が出た。まだかな。花が咲いた。」短いお話の中に、同じ言葉が二回あります。一回でわかるのに、書きすぎなのでしょうか。

これは、本サイトで作った架空のお話です。種・芽・花は、場面が進む目印。植物が育つ日数や育て方を説明しているわけではありません。

「種をまいた。芽が出た。花が咲いた。」と、出来事だけにしてみます。何が起きたかはわかりますね。でも、読んだ感じは同じでしょうか。挿絵のマスコットも、物語を読んで続きを待っています。

出来事の間に、待つ言葉を置く

下の図は、同じ三つの出来事を並べ、片方だけに「まだかな」を二回入れた比較です。出来事の順番は変えず、増えた言葉がどこにあるかを見てください。

「まだかな」を読んで、待ち遠しい感じがする人もいるでしょう。一回目の後で、また同じ言葉が来るかもしれない、と予想する読み方もできます。出来事を知らせることだけが、文章の役目ではないのです。

アメリカ詩人協会の解説は、同じ語や句を何度も使う反復(はんぷく)を、詩の基本的な技法として紹介しています。くり返しは読む人の予想を生み、その予想に沿ったり、外れたりすることもあると説明しています。

だからといって、必ず全員がわくわくするとは限りません。同じ言葉が多くて長く感じることもあります。どんな違いを感じたかを、実際の言葉の位置と一緒に話してみましょう。

出来事は同じ。言葉が二回戻る

A:出来事だけB:言葉を足す種をまいた。芽が出た。花が咲いた。種をまいた。芽が出た。花が咲いた。まだかな。まだかな。三つの出来事と、その順は同じ
  1. A:出来事だけ

    種をまいた。芽が出た。花が咲いた。

  2. B:言葉が戻る

    種をまいた。まだかな。芽が出た。まだかな。花が咲いた。

本サイト独自の短い話。Bには「まだかな」を二回加えました。出来事の数や順は同じで、物語内の経過日数は示していません。

同じ部分と、変わる部分

マスコットが、種をまいた鉢・芽・花を描いた三枚のカードで、自分のお話を組み立てる架空の場面。賢治の手帳や原稿の再現ではありません。
マスコットが、種をまいた鉢・芽・花を描いた三枚のカードで、自分のお話を組み立てる架空の場面。賢治の手帳や原稿の再現ではありません。

本物の作品からも、短く見てみましょう。宮沢賢治の〔雨ニモマケズ〕の初めには、「雨ニモマケズ」「風ニモマケズ」という二行があります。ここは、青空文庫の本文の表記で引用しました。

一行全部が同じなのではありません。「雨」が「風」に変わり、「ニモマケズ」が戻ってきます。下の図では、変わる部分と、くり返される部分を分けてみました。

同じ言い方で違う対象が続くので、雨と風を並べて受け止める読み方ができます。声に出さなくても、目で同じ部分をたどれます。「何に対しても」と広がる感じがしたなら、どの言葉が手がかりか考えてみましょう。

ただし、この二行だけで作品全体や作者の気持ちを説明し終えたことにはなりません。続きの本文にも戻って読めます。二枚目の挿絵のカードは、自分のお話を組み立てるための物で、賢治の手帳や原稿の再現ではありません。

変わる言葉、戻ってくる言い方

雨ニモマケズ風ニモマケズ左の言葉が変わり、右が戻る宮澤賢治〔雨ニモマケズ〕冒頭より
  1. 変わる部分

    一行目は「雨」、二行目は「風」。

  2. くり返す部分

    両方に「ニモマケズ」がある。

宮澤賢治〔雨ニモマケズ〕冒頭二行を、青空文庫の表記で示しました。区切りと色は説明のために付けたもので、原稿の見た目の再現ではありません。

同じ言葉でも、待つものは違う

最初のお話に戻ります。種をまいた後の「まだかな」では、芽が出ることを待っている、と読めそうです。芽が出た後なら、次は花を待っている、と読むことができます。

文字は同じでも、前後の出来事が変わっています。何を待つかが本文に直接書かれていないので、これは場面を手がかりにした読みです。別の読み方を思いついたら、それを支える言葉も探しましょう。

反復は、ただ同じ内容をもう一度知らせるだけとは限りません。同じ部分を見つけたら、その間に何が起きたか、何が変わったかも見られます。

一方で、反復を入れれば、どんな文でもよい作品になるわけではありません。手順を短く伝えたい文章なら、くり返しを減らしたい場合もあります。読む人にどう過ごしてほしいかで、選ぶ理由は変わります。

一つの言葉を、二回置いてみよう

「種をまいた。芽が出た。花が咲いた。」を紙に書きます。次に、種と芽の文の後へ「まだかな」を一つずつ足し、二つの文を読み比べましょう。

指でたどっても、声に出してもかまいません。「待つ感じが増えた」「前より長く感じた」「特に変わらない」。どれでも、どの言葉や場所を見てそう考えたかを添えてみます。

別の短い言葉でも試せますが、まずは一か所の変更だけで比べます。これは自分の表現を作る活動です。付け足した文を、宮沢賢治が書いた言葉として扱わないよう、原文と自分の話は分けましょう。

読む時は「同じだから飛ばそう」と決める前に、戻ってくる言葉を一つ見つけてみませんか。その周りで変わったことまで見ると、物語や詩の中で過ごす時間にも目が向きます。

くらべると、何が見える?

次の表は、この記事のために作った例です。

反復と読む楽しみをくらべる
注目することたとえば考える手がかり
出来事だけ種をまく、芽が出る、花が咲く。何が起きたかを短く伝えられる。
同じ言葉を加える種と芽の後に「まだかな」が戻る。出来事を増やさなくても、待つ感じや次への予想に関わり得る。
作品の言い方を確かめる「雨」と「風」は違い、「ニモマケズ」が共通する。全部同じとまとめず、変わる所も一緒に見る。

ことばの小さな辞典

反復
同じ言葉や言い方などをくり返して使うこと。
期待
ここでは、次に何が来そうかを思い描くこと。
原文
作品にもともと書かれている文章。自分で足した文とは分ける。

紙とえんぴつで、やってみよう

答えを送信する必要はありません。自分のノートに書いて、おうちの人と話してみてね。

  1. 戻ってくる言葉を探す。
  2. 同じ部分と、間に変わったことを分ける。
  3. 読む感じの違いを、本文の場所と一緒に説明する。

じぶんの考えを見つけよう

考えてみよう!

同じ三つの出来事に「まだかな」を二回足そう。出来事が増えていなくても、読む感じは変わった?

考えるヒントを見る

一回目と二回目の前後にある言葉を見よう。何を待っていると読めるかな。感じ方の答えをそろえるより、手がかりになった場所を話してみよう。

参考資料・さらに読む

おうちの方へ:お話のもとになった考え方を調べるための資料です(英語の資料を含みます)。身近な例や「考えてみよう」は、このサイトで作りました。

反復の技法と期待に関する説明はAcademy of American Poetsの解説を参照しました。賢治の作品は青空文庫の本文と底本注記を読み、冒頭二行のみ原表記で引用しています。「雨・風」と共通する言い方への注目は、本サイトでの読み方の例です。種・芽・花の話、カード、マスコットの場面と説明図は本サイト独自に作り、実際の手帳・原稿を再現していません。

内容の誤りや出典についてのご指摘は、訂正窓口へお寄せください。