語り手と視点

物語の「わたし」は、信じていいの?

本に出てくる「わたし」は、本を書いた人? 短いお話を読みくらべてみよう。

この記事で考えること:だれの声で話しているか、何を知っているか。ことばへ戻って考えよう。

本を書いた人と、お話する人

物語を書くマスコット。頭に浮かんだお話と、書いている本人は区別して考えます。
物語を書くマスコット。頭に浮かんだお話と、書いている本人は区別して考えます。

物語に「わたしは犬がこわい」と書いてあったら、本を書いた人も犬がこわいのでしょうか?

そうとは限りません。犬がこわい登場人物になったつもりで、書いているのかもしれないからです。本を書いた人を「作者(さくしゃ)」、物語を話してくれる声を「語り手(かたりて)」といいます。

同じできごと、ちがう見え方

時計を見たのは、電車の時間が気になったからかも。行動の理由は、外からはわかりません。
時計を見たのは、電車の時間が気になったからかも。行動の理由は、外からはわかりません。

こんな短いお話を読んでみてください。これは、このサイトが作ったお話です。

「ゆいちゃんは時計を見た。わたしは、もう帰りたいんだろうな、と思った。」わかっているのは、ゆいちゃんが時計を見たこと。「帰りたい」は、話している人の想像ですね。

では、ゆいちゃんの側から。「電車まで、まだ10分ある。もう少し、この子と話せそうだ。」どうでしょう。時計を見た理由が、最初の想像とはちがって見えませんか?

下の図では、同じできごとを真ん中に置き、2人の声を分けました。気持ちを想像しているのは、どちらかな?

時計を見る。同じ場面を、2人の目で。

ゆいちゃんが時計を見た
相手の「わたし」

もう帰りたいんだろうな。

相手の気持ちは、まだ知らない。
ゆいちゃん

電車まで10分。
まだ話せそうだ。

自分の予定と気持ちを知っている。
時計を見た行動は同じでも、その理由の見え方は変わります。左は相手の推測、右はゆいちゃん側の声です。どちらもこのサイトが作ったお話です。

ことばの手がかりをさがそう

「帰りたいんだろうな」の「だろうな」は、考えたことであって、たしかめたことではない、という手がかりです。小さなことばにも注目してみましょう。

文学(ぶんがく)では、何が起きたかだけでなく、だれが、どんなことばで話しているかも考えます。すべてに隠れた意味があるとは限りません。気になるところを見つけたら、前後の文も読んでみるとよいですよ。

語り手が知っていることには、限りがある

物語を話してくれる人も、ほかの人の気持ちを全部知っているとは限りません。記憶ちがいをしたり、自分に都合のいい話し方をしたりすることもあります。

物語の中の説明を、そのまま信じてよいか考えるときは、「語り手(かたりて)」が何を知っているかに注目します。書かれた説明と、登場人物の行動が食いちがうところはあるかな?

でも、ただ「本当はこうだったはず」と想像するだけでは、物語の読み方を説明できません。「この文があるから、こう考えた」と、ことばの手がかりへ戻ることが大切です。

次の図のように、同じ行動にも読み方は複数あります。前後の文を読んで、どの読み方を支える手がかりがあるか探しましょう。

「平気」と言う。でも、手がふるえている。

ことば「わたしは平気だった」
行動「手がふるえていた」
こわいのかも?

平気なふりをしている?

寒いのかも?

外は雪だったと書いてある?

「この文があるから」と説明できるかな。

ひとつの行動から、気持ちは決めきれません。「こわい」も「寒い」も仮の読み方。前後の文章に合う手がかりを探そう。

今日、やってみよう

好きな物語から、短い場面を選んでみましょう。別の登場人物になったつもりで、その場面を3行で書いてみてください。

見えるものや、知っていることは同じかな? ちがう人の目で考えると、同じお話にも、新しいおもしろさが見つかります。

くらべると、何が見える?

次の表は、この記事のために作った例です。

語り手と視点をくらべる
注目することたとえば考える手がかり
行動ゆいちゃんは時計を見た伝えられた行動。まだ理由は書かれていない。
推測もう帰りたいんだろうな話している人の考え。ゆいちゃんの気持ちと同じとは限らない。
別の声もう少し、この子と話せそうだゆいちゃん側の声で、時計を見た理由の読み方が変わる。

ことばの小さな辞典

作者
物語を書いた実際の人。物語の「わたし」と同じとは限りません。
語り手
物語を伝える声。登場人物として話すことも、外から話すこともあります。
視点
だれの見え方や知っている範囲を通して、できごとを読むかということ。

紙とえんぴつで、やってみよう

答えを送信する必要はありません。自分のノートに書いて、おうちの人と話してみてね。

  1. 「友だちが手を振らずに帰った」という場面を2行で書こう。
  2. 帰った人の側から2行で書こう。急いでいた? 気づかなかった?
  3. 最初の文からわかることと、自分で足した設定を分けよう。元の物語を読むときは、足した設定を証拠にはできないよ。

じぶんの考えを見つけよう

考えてみよう!

お話に「わたしは平気だった」とあるのに、その人の手がふるえています。どんな気持ちだったと思う?

考えるヒントを見る

こわいけれど、平気なふりをしたのかもしれません。でも、寒かったのかもしれませんね。前後の文章に手がかりはあるかな? 自分の読み方を、物語のことばといっしょに説明してみましょう。

参考資料・さらに読む

おうちの方へ:お話のもとになった考え方を調べるための資料です(英語の資料を含みます)。身近な例や「考えてみよう」は、このサイトで作りました。

作者・語り手・視点の区別はOpen UniversityのApproaching prose fictionを参照しています。ゆいちゃんの短い物語と書き換え活動は本サイトの創作です。

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