さっきは一本に見えたのに

展示室に、青い柱が二本あります。二本が前後に並んでいるので、まっすぐ前から見ると、後ろの柱が隠れました。横へ移ると、二本とも見えてきます。これは、このサイトで考えた架空の作品です。
柱が増えたわけではありません。変わったのは、見る人が立つ場所です。「何があるか」と「ここから何が見えるか」は、分けて考えられるのですね。
彫刻(ちょうこく)には、厚みや奥行きのある形を楽しむ作品があります。顔のある像なら、まず顔を見たくなるかもしれません。でも、前から見た姿だけで、作品の形を全部見たと言えるでしょうか。
挿絵では、マスコットが二本の柱を少し斜めから見ています。実在する美術館や作品を再現したものではありません。まずは、形の重なりに注目しましょう。
自分が動くと、重なりが変わる
下の図は、同じ高さの柱二本を、前後に間を空けて置いた模型です。前から見る図では、手前の柱が後ろを隠します。横から見る図では、柱の間の空きが見えます。
どちらも同じ二本です。一つの方向からの姿は、作品の手がかりになりますが、見えていない側までそのまま表しているわけではありません。写真を一枚見る時にも、どこから撮った姿かを考えられます。
ゲティ美術館の教育部門が作った鑑賞案内には、彫刻を違う距離や見る位置から眺める提案があります。近づく・離れる、横へ移る。自分と作品の関係を変えることも、見る方法になるのです。
ただし、移動は見学できる場所の範囲で。作品を動かしたり、柵の内側へ入ったりする必要はありません。動けない時は、許可された別の位置や、違う方向の写真を手がかりにできます。
同じ二本。見る位置が違う
- 前から見る
手前が重なり、後ろの柱が隠れる。二本あることは変わらない。
- 横から見る
柱が二本と、その間の空きが見える。
違う姿から、違う動きが見える

実際の美術館は、見る位置の違いをどう説明しているでしょう。アメリカのナショナル・ギャラリーは、ジョエル・シャピロの《無題》(1989年)を、動いている人の姿を思わせる一方、つり合いや重力を探る抽象的な彫刻としても紹介しています。
同館の解説は、作品の周りを移動すると、さまざまな生き生きした形の組み合わせに出会い、印象が変わると説明しています。形の集まりを、いつも一つの姿に決めなくてもよいのですね。
「走っているように感じた」と思ったら、どの部分からそう感じたか、もう一度見ます。斜めの棒、下を支える細い部分、棒の間の空き。見えた特徴と、自分の感じ方をつなげて話してみましょう。
見る位置が変わっても、必ず全員の印象が変わるとは限りません。また、自分が感じた動きだけで、作者の気持ちまでわかったとは言えません。二枚目の挿絵は、家で模型を見比べる練習です。シャピロの作品の再現ではありません。
どの彫刻も、ぐるりと見られる?
「彫刻なら、後ろも見なくては」と決める前に、作品と置かれ方を確かめましょう。周りへ回れる作品もあれば、壁に付いた形を楽しむ作品もあります。
平らな面から形が盛り上がる彫刻は、「浮き彫り」と呼ばれ、レリーフともいいます。イギリスのナショナル・ギャラリーの用語解説も、平らな土台の上に層を作る彫刻として説明しています。
下の図では、周りに空間のある柱の模型と、板から丸が盛り上がる模型を比べました。後ろへ回ることが、どちらにも同じように役立つわけではありません。作品の形と、見られる範囲を一緒に考えます。
この二つで彫刻の種類が全部わかる、という分類ではありません。「正面がある作品はよくない」という順位でもありません。どこから見ると、何に気づけるか。その問いを、目の前の作品に合わせるのです。
形と、見られる範囲を確かめる
- 周りに空間のある模型
違う方向から、重なりや側面を比べられる。
- 板から盛り上がる模型
平らな土台と、前へ出た形の関係を見られる。
二つの積み木で、見え方を比べよう
同じ形・高さの、倒れにくい積み木を二つ用意します。低く安定した机の上に、間を空けて前後に置きます。高く積まず、二つの位置はそのままにしましょう。
まず、手前の積み木の後ろに、もう一つが重なって見える位置を探します。次に、机の周りの安全な範囲で横へ移り、二つがどう見えるか比べます。動きにくい時は、大人に同じ模型の写真を違う方向から撮ってもらってもかまいません。
「前では後ろが隠れた」「横では間の空きが見えた」と、見えたことを言葉にします。その後で、「門みたいに感じた」など、思ったことを添えます。うまく重ならなければ、無理な姿勢を取らず、見えた違いをそのまま記録しましょう。
模型を見る実験と、美術館の作品を見ることは同じではありません。でも、一つの姿を見た後に「別の場所からは、どう見える?」と問いかける練習になります。形を変えずに、見方を増やしてみませんか。
くらべると、何が見える?
次の表は、この記事のために作った例です。
| 注目すること | たとえば | 考える手がかり |
|---|---|---|
| 作品にあるもの | 模型には柱が二本ある。 | 見る位置を変えても、本数や配置はそのまま。 |
| その位置から見えるもの | 前では後ろが隠れ、横では間が見える。 | 見えないことと、存在しないことを区別する。 |
| 見て感じたこと | 走っているよう、門のように感じた。 | どの形が手がかりかを話し、作者の意図とは区別する。 |
ことばの小さな辞典
- 奥行き
- 前から後ろへ続く方向の広がり。
- 見る位置
- 作品に対して、自分がどこにいるか。
- 浮き彫り
- 平らな面から形が盛り上がる彫刻。レリーフともいう。
紙とえんぴつで、やってみよう
答えを送信する必要はありません。自分のノートに書いて、おうちの人と話してみてね。
- 同じ模型を、違う位置から見比べる。
- 重なり・見える面・空いたところを探す。
- 見えた特徴と、そこから感じたことを分けて話す。

じぶんの考えを見つけよう
考えてみよう!
同じ積み木二つを前後に置き、前と横から見よう。積み木の数を変えずに、何の見え方が変わった?
考えるヒントを見る
「見える積み木の数」だけでなく、「二つの間の空き」も比べよう。見えたことを先に、その形から感じたことを後に話すと、違いを説明しやすくなるよ。
参考資料・さらに読む
おうちの方へ:お話のもとになった考え方を調べるための資料です(英語の資料を含みます)。身近な例や「考えてみよう」は、このサイトで作りました。
見る距離・位置を変える提案はゲティ美術館の案内、シャピロ《無題》の読み方は米国ナショナル・ギャラリーの解説、浮き彫りの説明は英国ナショナル・ギャラリーの用語解説を参照しました。二本の柱、板の模型、積み木、マスコットの場面と図は、本サイト独自の説明用の例です。実際の作品の形・展示場所を再現したものではありません。
- ゲティ美術館教育部門「The Secret Tour」—違う距離・見る位置からの鑑賞
- 米国ナショナル・ギャラリー「Sculpture Garden Self-Guided Tour」—Joel Shapiro, Untitled, 1989
- 英国ナショナル・ギャラリー「Relief」—浮き彫りの用語解説
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