同じ葉っぱが、三枚できた

葉の形のスタンプにインクをつけて、一枚の紙に押します。もう一度インクをつけて、別の紙にも。三枚の紙に、よく似た葉の絵ができました。これは本サイトで考えた、説明のための工作の場面です。
最初の一枚だけが本物で、後の二枚は偽物なのでしょうか。でも、二枚目も三枚目も、最初の紙を写したわけではありません。同じスタンプから、それぞれ生まれています。
版画(はんが)にも、一つの版から複数の絵を生む作り方があります。挿絵のマスコットと一緒に、「本物は一枚しかない」という考えを、少し広げてみましょう。
紙の絵ではなく、版から写す
版とは、絵を紙などへ移すための、もとになる面です。版画には、木の板を使う木版画や、石や金属の板を使う方法など、いろいろな作り方があります。スタンプは、その仕組みの一部を身近に考える例です。
下の図では、版から三枚の紙へ線が分かれます。注目するのは、紙から次の紙へ写しているのではないこと。それぞれが、同じ版から絵を受け取っています。
メトロポリタン美術館は、版画の利点として、一つの版から同じ図柄を複数刷れることを説明しています。刷る(する)とは、ここでは版の絵を紙へ移すことです。
ただし、版画はすべて同じ方法で作るわけではありません。一枚だけの刷りを特徴とするモノタイプという方法もあります。「版画なら必ず何枚も同じものがある」とまでは言えません。
一つの版から、三枚へ
- もとになる版
同じ葉の形のスタンプを使う。紙の絵を次の紙へ写すのではない。
- 三枚の刷り
毎回インクをつけ、別の紙へ一回ずつ押す。それぞれが版から生まれる。
複数あることも、作品の生まれ方

作家が、版から刷った一枚一枚を作品として作ることがあります。その場合、一枚目だけが作品で、二枚目からは自動的に偽物になる、という分け方は合いません。
実際に、メトロポリタン美術館は、1893〜1895年に刊行された版画集『レスタンプ・オリジナル』を紹介しています。複数の刷りが存在する版画でも、独創的な芸術になり得ることを打ち出した版画集です。
この版画集では、作家と、刷る技術を持つ職人との協力も大切でした。作品を生み出すことを、作者が一人ですべての紙に直接描くことだけに限らず考えられますね。
二枚目の挿絵は、マスコットが似た葉の刷りを見比べる架空の場面です。実在する美術館の作品や、その版画集の図版を再現したものではありません。
「何枚?」のほかに、「どう作った?」
では、同じ絵が何枚もあれば、全部が版画作品と言ってよいのでしょうか。そこも、枚数だけでは決められません。美術館の解説は、作品の材料や技法、つまり何を使ってどう作ったかを見る大切さを伝えています。
下の図は、作品を見るための三つの問いです。「何を使った?」「どう写した?」「誰が関わった?」。作品のそばの説明札も、手がかりになります。わからないことは、わからないまま区別しておきましょう。
「一枚しかないから、すごい」「何枚もあるから、つまらない」とすぐに決めると、版の工夫や刷る仕事が見えにくくなります。枚数のほかにも、楽しめるところがあるのです。
一方で、似た図柄を見ただけで、本物だと判定することもできません。このお話は、作品の真贋(しんがん)を見分ける方法ではなく、作られ方を考える入口です。
作品を見る、三つの手がかり
- 何を使った?
紙、木の版、インクなど。まず材料の説明を見る。
- 作り方へ目を向けるどう写した?
木版画など、技法の名前や作り方を調べる。
- 関わった人も確かめる誰が関わった?
作家のほか、刷る仕事をした人などにも目を向ける。
同じスタンプで、違いを見つけよう
工作用の、できあがったスタンプとインク、紙三枚を用意します。同じスタンプを使い、毎回インクをつけて、それぞれの紙に一回ずつ押してみましょう。
三枚を並べて、「同じところ」と「違うところ」を探します。形は似ていても、インクの濃さや、紙のどこに押したかが少し違うかもしれません。違いが見つからなければ、無理に作らなくて大丈夫です。
これは美術作品の本物・偽物を決める実験ではありません。同じもとから複数を作ることと、一枚ごとの様子を見ることを、手を動かして考える活動です。
美術館で版画に会ったら、絵柄を楽しんだ後に、材料や作り方の説明も見てみませんか。「一枚だけかな?」に「どう生まれたのかな?」が加わると、見るところが増えていきます。
くらべると、何が見える?
次の表は、この記事のために作った例です。
| 注目すること | たとえば | 考える手がかり |
|---|---|---|
| 同じ版から | 一つのスタンプを、三枚の紙に押す | それぞれが同じ版から生まれる。最初の紙を順番に写す例ではない。 |
| 一枚ごとの様子 | 形が似ていても、インクの濃さなどを見る | 工作で観察する点。違いの有無だけで本物とは判定できない。 |
| 作られ方を見る | 材料・技法・関わった人を調べる | 枚数だけではわからなかった、作品を見る手がかりが増える。 |
ことばの小さな辞典
- 版(はん)
- 絵を紙などへ移すための、もとになる面。
- 刷る(する)
- ここでは、版から紙へ絵を移すこと。
- 技法(ぎほう)
- 作品を作るための方法や技術。
紙とえんぴつで、やってみよう
答えを送信する必要はありません。自分のノートに書いて、おうちの人と話してみてね。
- できあがった工作用スタンプ、インク、紙三枚を用意しよう。
- 毎回インクをつけ、同じスタンプを紙ごとに一回ずつ押そう。
- 三枚の同じところと違うところを比べ、どう作ったか説明しよう。

じぶんの考えを見つけよう
考えてみよう!
同じスタンプで三枚に押したら、「同じ」と「違う」はどこにある?
考えるヒントを見る
形、インクの濃さ、紙の中の位置を見よう。どの紙も、前の紙ではなく同じスタンプから生まれたことも確かめてみて。
参考資料・さらに読む
おうちの方へ:お話のもとになった考え方を調べるための資料です(英語の資料を含みます)。身近な例や「考えてみよう」は、このサイトで作りました。
版からの転写、複数の刷り、モノタイプの例外、材料・技法を見る視点は美術館のMaterials and Techniquesを参照しました。版画集の刊行年、複数性と独創性、刷り師との協働はL’Estampe Originaleの解説に基づきます。葉のスタンプ、挿絵、図、工作の活動は本サイト独自の架空例・模型です。美術館の作品画像や文章を転載していません。
- メトロポリタン美術館「Materials and Techniques」—版画の仕組みと材料・技法
- メトロポリタン美術館「L’Estampe Originale: A Rare Print Portfolio Now Online」—複数の刷りと芸術、作家と刷り師
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